忍阪集落のほぼ南端の小高い所に「伝 薬師三尊石仏」で知られる石位寺があります。いずれの宗派にも属さない無住寺で、今は忍阪区の住民が交代で維持管理しています。入江泰吉の写真でも知られる寄棟造りの旧本堂(薬師堂)は老朽化で惜しくも昭和53年に立て替えられていますが、この旧本堂は元禄2年(1689年)12月、領主と関係があった奈良奉行の大岡忠高が、資金を助力して建立されたと言われています。
本尊は、白鳳時代(644年〜710年)に製作されたと思われる薬師三尊石仏で、わが国では最も古い石彫りの三尊仏として『国の重要文化財』に指定されています。三尊を刻んだ石板の大きさは、高さ1.18m、幅1.25m、厚さ約34cmで、丸みをおびた安産岩(諸説あり)に彫刻されています。中尊は方形の台座に腰掛けた如来形で、頭上に天蓋が描かれています。背後に頭光と背もたれが表示され両脇侍は合掌して立ち、頭光が描かれています。三尊とも薄い法衣を通して内部の肉体の起伏がよく現れており、布の質感も巧みに描かれています。彩色されていたらしく、その痕跡が像の唇と着衣にわずかに残る美しい石仏です。
石仏の願主は女流万葉歌人・額田王(天武天皇の妃)で、額田王の念持仏ではないかとの説もありますが推測の域を出ません。長谷寺の銅盤法華説相図の諸像に似ているとされ、同時代の制作と推定されています。1300年前に、造られたとは思えないくらい保存状態もよく、この石仏の前に座っているだけで、慈愛に満ちた石仏さんの心が伝わり、「ずっとここにいたい」そんな気持ちにさせていただける石仏さんです。
石位寺参考HP http://team-ossaka.jimdo.com/